@十八×戦人
A犯人戦人さん注意
……………………
…………
……
幾子さんに拾われてから、どれだけの月日が経っただろうか。
彼女と話すミステリー小説の話題は、本当に楽しい。
自分自身が記憶喪失で、どこの誰かもわからない、そんな状況がまるで嘘のように思えた。
「幾子さん、私を拾ってくれてありがとうございます。そして、私に、十八という名前を与えてくれて、ありがとう。この名前が無かったら、私は自分を保つことができなかったに違いない」
「そんなことありませんよ。私も十八に出会えたことに感謝しているのです」
幾子さんはいつも笑ってくれて。私の心の支えになってくれる。
しかし、幾子さんに言えない重要な、とても重要な悩みが……私にはあった。
「おい、テメェ。いつまでそうして女とうつつを抜かしているつもりだ?いい加減、現実見ろよ」
自分自身の声が、痛いほどに大きく頭の中に響いた。
右代宮戦人。
私の頭の中に、いつでも居座っているもう一人の自分。
それが、彼だった。
「てめー頭の中で俺飼ってるんだぜ。俺、絶対に逃げられないお前のペットなの。たまには俺の相手もしてくれよ?なぁ?」
「ッ……!!!」
私は頭をかかえて蹲る。
「十八!?大丈夫ですか、お医者様を呼ばないと…!」
「大丈夫です、幾子さん。少し、休めば……」
勿論、彼の声は私にしか聞こえない。私がずっと戦い続けている"右代宮戦人の記憶"を具現化した存在。それが彼なのだから。
「無駄無駄無駄。いい加減諦めて屈服しろよ?てめぇは俺の記憶から逃げられない」
「黙れ。黙れ……!!!」
「さっさと認めろ。お前が戦人であることを認めろと言ってるんだよッ!?」
「やめろ、やめてくれ、うあああああああああああああ……!!!」
「十八、大丈夫ですか!?十八ッ……!」
そして私の意識は、飛んだ。
一体、何回目だったか。
……………………
…………
……
一面に広がる、闇の中。
私の目の前に、もう一人の自分である"右代宮戦人"が立っていた。
「なぁ。十八だって知りたいんだろ?六軒島で何が起こったのか」
「私は真実に興味などない。私と幾子さんの日々を邪魔しないで頂けますか」
戦人はチッチッと指を振る。
「あぁ駄目だな、全然駄目だぜぇ?顔に出てるぞほら」
私の顔をグイと無理矢理持ち上げ、ニヤリと笑う。
「お前、本当はこういうの大好きなんだぜ。だってミステリー小説大好きだもんな?殺人事件なんて聞いた日にゃ、推理せずにはいられない。いいんだぜそれで。それが好奇心ってもんだ」
くくくくくくくと笑い声が響く。
「やめて……下さい……」
「やめないッ!お生憎だったな。お前が認めるまでやめるつもりは毛頭ないッ。見ろよ、これが六軒島の真実……!」
彼がパチンと指を鳴らすと、場面が切り替わる。
「や……め………!!!」
暗闇が歪み、現れたのは……あの日の、六軒島での出来事だった。
……………………
…………
……
……雨音が、聞こえる。
「なぁ。霧江さんとクソ親父。金のことで悩んでるっていうのは本当なのか」
「やれやれ、何の話やら」
「強がるなよ。俺が気付かないとでも思ったか?隠そうにも限界があるぜ。会社が危ないんだろ」
「……さすが戦人君ね。気付いてると思ったわ」
「子供が入る話題じゃねぇ。お前は関わるな」
「ハイハイッ…。って言いたい所なんだけどなぁ。それって俺にもすげー関係あることだから。俺が次期当主になる計画が台無しなんだよ」
「次期当主になるだとぉ?おいおい…、初耳だな」
「私もよ。でも、そうなってくれたら私達の悩みは一瞬で解決するわね、くすくす」
「……一つ、提案があるんだが」
「何だよ?お前は一度右代宮から籍を抜けてる。今更戻ってきて次期当主なんて無理に決まってんだろう」
「…まぁなあ。だから諦めようかと思ってたんだけどな。…思い付いちまったんだよ、最高に、そして確実に。財産を手に入れられる方法」
「馬鹿な…。そんなことがあるなら苦労はしねえ。冗談はやめろ」
「親父……思いつかなかったのか?親父ならとっくに計画してると思ってたんだがなァ…」
「殺せばいいんだよ、みんな」
シ………ン。
「ちょっと戦人君。今なんて言ったの……?本気?」
「冗談で言ったつもりはないです」
「悪いが、刑務所は勘弁して頂きたいな」
「何言ってんだクソ親父。親父だって今まで犯罪ギリギリの商売続けてきたんだろうが」
「……戦人、お前変わったな。明日夢が死んでから」
「あぁ、そうだな。カアサンが死んで、俺の精神ぶっ壊れちまったのかな?ははは。あいつらを殺したくて仕方ない。もうさ、こんな一族俺はどうでもいいんだ。生きてても仕方ないクズばかりじゃねえか。殺しても良心が痛むことは無いと思うぜ」
「……戦人」
「なあ、殺っちまおうぜ。思い切ってさ。俺は屋敷の隅々まで調べた。どうやら金塊の話は本当らしい」
「ベアトリーチェの金塊。あの話は本当だったのか?」
「あぁ。そしてこの島には戦時中の爆弾も眠っている」
「爆弾!?何だそりゃ」
「その爆弾を利用すれば、全て吹っ飛ばして終わらせることが出来る。警察の捜査も不可能になる訳だ。完璧だろ?実行するなら今回しかチャンスはないぜ」
「……しかし…だな」
「いい考えね、戦人くん」
「霧江ッ、ちょっと待てよ、もう少し考えてから…!!」
「戦人くんって頭がキレる子なのね。私とあなたになら、きっと殺人事件を実行できるわ。勿論、穴のない完璧な計画が必要になるけれど。頑張りましょう」
「協力してくれるのか?霧江さん」
「おい…本気か」
「本気よ。留弗夫さんの会社が大変な状況で。それを助けるためなら、人殺しだって何だってするわ」
「…………」
「クソ親父、早くしろ。決断もできねぇのか」
「……わかった」
「俺が、これから殺人計画を説明する。殺しには銃を使うのが一番だな。一人ずつ電話で順番に呼んで殺していくとやりやすい」
「えぇ…それで……?」
……………………
…………
……
「戦人さま、六軒島の全ての真実を教えました」
「ああ」
「右代宮金蔵が死んでいること。金塊のこと。地下に爆弾が埋まっていて、あの時計がスイッチになっていること。地下通路のことも」
「ああ、感謝している」
「そして、私が近親で生まれた子で…恋もできない体であったこと。知っている全てを教えました」
「……」
「………どうか私をお許し下さることはできないでしょうか」
「まだ駄目だな、許さない」
「戦人さまを六年間信じ続けることができず、譲治様と婚約してしまった私を、どうかお許し下さい…!!お願いです…!!」
「残念だが、まだ許すことができない」
「そ、そんな…。私は一体いつになったら拷問から解放されるのですか…?ずっとあなたのことが好きだったのに、私、逃げてしまったんです。魔女に心を明け渡したつもりになって、譲治さんと…。本当にごめんなさい。後悔しているんです。私、つらいです、苦しいです……」
「……俺が解放してやるよ。永遠の拷問から」
「本当ですか…!?嬉しい。嬉しいです…!私は一体何をすれば…?」
「何もする必要はねえ」
グサリ。
彼女の胸に赤い薔薇が広がっていく。
「え……あ……?戦人……さん……?」
「ずっと憧れてたろ?六軒島の魔女、ベアトリーチェに」
「……ぁ……」
「君は、今回の六軒島殺人事件でベアトリーチェとして生まれ変わるんだ。素晴らしいことだろ?」
「そんな……。私、し、死ぬのですか……!?」
「俺のこと愛してるんだろ?今でも愛してるんだろ?最愛の俺に殺されて嬉しいだろ?俺達は黄金卿で永遠に一緒にいられるぜ。くくくくくははははは」
「……ぁ…ずっと、一緒……?……う…う…うれ、しい……嬉しい…ですね…。…あはははは…は……ははははははははははははははははははは」
「……嬉しいだろ?ベアト?」
「妾は、ずっとお前に殺されたいと思っていた。ありがとう、戦人。愛しているぞ」
バタリ。最期の言葉を残し、魔女は死んだ。
……………………
…………
……
「やめて下さいッ、お願いですから……!!初恋の人さえも手に掛けるなんて、私には…!私には信じられないッ!!」
私の悲鳴で、場面が掻き消える。
膝を落として蹲る私を、彼は王座の上から見下ろす。
膝の上には、魔女ベアトリーチェの姿があった。
「紹介する。俺の永遠の恋人、ベアトリーチェだ」
その魔女は人形のように美しく、しかしまるで死体のように何も喋らない。
ただ戦人のために存在する、……ただの家具。
「それのどこが恋人だというのです」
金髪。ふくよかな胸。
「俺の理想の女……。愛してるぜ、ベアトリーチェ」
彼が彼女の服をはだけ、胸を掴む。ビクンと彼女の体が揺れた。
「ハァ……。感度がいいな。興奮してきちまった」
「………!!見せないで下さい。そんなもの、見たくない…」
彼が彼女の体に覆いかぶさる。
「どうしてだよ。男と女なら当然のこと。本当はお前も幾子さんのことこうしたいと思ってるんじゃねーの?」
「思ってないッ!あなたみたいな下品な感情じゃないッ」
「…って。したくてもできないか。その足じゃな」
「あ………足………?」
私は自分の両足を見た。
その両足がなかった。
「お前、俺の記憶に耐えられなくなって自殺をはかったんだとさ。気の毒になぁ。もうその足は二度と使い物にならない」
「ぐッ……ぅぅ……あ………」
「そのまま死んでいれば良かったのに」
もう嫌だ……。
嫌だ嫌だ嫌だ………!!!
私は本当に殺人者だったのか?こんなに最低な殺人者だったのか?
罪の重さに耐えられない。
…死んでしまいたい……。
「あ、俺。ちょっとベアトといちゃついてくるから小休止な。六軒島殺人事件はまだまだ続くけどな〜」
「…………」
……………………
…………
……
「……霧江………?」
「あぁ、クソ親父。遅かったな」
「どういうことだ…。何で……霧江……死んで……」
「霧江さんほんっとひでえ。俺のことブッ殺そうとしてきたんだ。"明日夢さんの息子である戦人君は、私達夫婦にとって邪魔な存在でしかない"だとさ。もう少しで俺の人生エンドになるところだったぜ」
「……霧江……霧江……」
「何で泣いてるんだ?クソ親父、美人な女ならどんな女でもいいんだろ。カアサンをあっさり捨てたぐらいだしな。これよりいい女なんてすぐに見つかるだろ」
「……戦人……。よくもッ、よくも……!!お前は狂ってるッ」
「カアサンの心を蔑ろにしたあんたに言われたくねぇなぁ」
「ふざけるなッ!!三人で脱出するって約束したじゃねえかッ!!」
「霧江さんの方が拒否ったんだよ。何で俺が怒られてるんだか。意味不明だな」
「戦人ああああああ……!!!」
「…俺を一度も愛してくれない、最低のクソ親どもが……。やっぱり俺の親はカアサンだけだったんだ。もういらねえよ、お前達みたいな親なんか」
「戦人。許さない。もうお前はッ…。俺の息子じゃない。ただの悪魔だ」
「……ウンザリするぜ。いらない、親父なんかもういらない。さっさと死んじまええええええッ!!!」
私の頭の中で、また銃声が響く。
全員死ぬ。全員殺す。
右代宮戦人が、全員殺す。
全員が死に、右代宮戦人のみが行方不明という都合の良い筋書が終わり、長々としたエンドロールが流れたあと、物語は終わりを迎える。
……………………
…………
……
「………。もう、私は彼に屈服するしかないのでしょうか」
自分が右代宮戦人であることを認め、罪を背負って自殺してしまおうか。
それとも、私が犯人ですと、世間に発表してしまえば良いだろうか。
警察に自主したら、私を死刑にしてくれるだろうか。
…何も証拠など、存在しないのに。
しかし、それが一番確実な方法なのでは…。
私は罪に問われるべきなんだ。
幾子さんとの生活で、何を夢見てきたんだろう……。
ああ、言ってしまおう。
もう一人の自分に、あいつに、戦人に。
「私は戦人です。そして犯人です」って言ってしまおう。
もう、全てを、終わりにしよう…………。
フラフラと歩いていく。
両足が使い物にならなくなった私が、何故歩けるのかわからないが。
この世界では、基本的には現実にできないこともできるらしい。
暗闇の中に、一つのドアが現れる。
その隙間から明かりが漏れていた。
戦人とベアトリーチェが、愛の行為を行っているのだろうか…。
もう、どうでも良かった。終わりにしたい。
右代宮戦人の、荒い吐息が聞こえて。
性欲に、溺れて、あがいているののが……聴こえて……。
―――いつまで、続くんだ…?この拷問はよぉ。さっさと俺を、逝かせてくれよ……。
―――もう、終わりにしたいんだ……解放されない……誰か……誰でもいい……誰……か……。
―――苦しい……。死にたい……。誰か、俺……を………殺……して……。
違う。彼はたった一人で。
部屋でもがき苦しんでいるだけ。
―――最低な俺……。死んでしまえ、はやく死んでしまえ……!!
自分で自分の首を絞めて。
何度も何度も、手首を切って。
―――死ねない…?どうして死ねない…?
どうして彼はこんなに苦しんでいる?
私と同じぐらいに苦しんでいるのか。
いや、寧ろ私以上に……?
―――わかってる。六軒島事件は永遠で。永遠に沢山の人間に持て遊ばれる運命だから。その度に、絵羽犯人説だの、次男夫婦犯人説だの、俺犯人説だの何だのと罵られる。
そう…。それこそが六軒島の運命。
定められた運命。
―――その度に、みんな死んでいくんだ。そして、誰かが犯人にされていく。何度も何度も、殺され続ける。霧江さんも、親父も……そしてベアトも。みんなみんな苦しみながら死んでいく。何度も殺され続ける永遠の拷問。
―――……そんなの、悲し過ぎるじゃねぇかよ……。
……………………
…………
……
私は、彼と会話し続けているこの闇に戻ってきていた。
同じく、戦人も戻ってきている。
「あぁ…!!スッキリした。全部ベアトの中にブチ込んできたぜー」
「下品な発言やめて下さい。首絞めますよ」
「ッ。な、何だよいきなり…。定期的に出さないと体に良くねーんだぞ!お前いつまで禁欲続けてんだッ」
この人は……。よくもぬけぬけとそんな嘘を。
でも、大丈夫です。彼の本当の姿を知ったから。
「ゲームを開始しましょう」
「ゲーム?何だそりゃ」
「私とあなたの。十八と戦人の勝負。どちらの人格が勝つか、一発勝負といきましょう」
「やっと俺に屈服する気になったのか?」
「どうでしょうね」
「ハッ。さっさと俺に体を明け渡していりゃあいいんだよ。さっさと始めやがれ」
私はゆっくりと椅子に腰かける。
そして、彼も向かい側の席に腰かける。
…さあ、始めましょうか。最初で最後の、あなたと私のゲームを。
私は彼に要求する。
「復唱要求。"六軒島殺人事件の犯人は右代宮戦人である"」
「ッ…。なんだそりゃ」
「赤字で復唱しろって意味ですよ。確か赤い文字でガキンガキンとベアトリーチェと対決していた頃が、一番楽しかったってあなた言っていましたよね」
「…そうだったっけか?覚えがねぇな」
「赤字は絶対の真実なんでしょう。だったら言って私を斬って下さいよ。さあ。さあ!!」
彼には明らかに焦りの表情がある。当然だ。
「…残念だが。俺は赤字を使えない」
「嘘ですね。あなたは魔術師になった筈。赤字だろうが金字だろうが何だって言える筈です。それなのに何故言わないのですか」
「赤字など言わなくても、あれだけ見せられたらわかるだろうがッ!!」
「嘘です、嘘です、嘘ですね。…簡単なことです」
私は彼の目の前に指を付き出す。
「どうして気付かなかったのでしょうか。チェス盤をひっくり返せば簡単なこと。言えないのです」
「何…だと……!?」
「それは、あなたが犯人ではないからッ!!」
「ぐッ……。あぁ………!!?」
ガシャリ。その瞬間、彼の首に長い鎖をつけた首輪が現れる。
「な、何だこれ。取れな…!」
「また自分自身の密室に閉じ込められるなんて。皮肉ですね」
「ばかなこと言ってんじゃねえっ。犯人は俺だ俺なんだッ…ぐッああああああ……!!?」
彼の両手に、両足に、同じ輪が現れる。
いくつもの鎖が、彼の体をがんじがらめにしてしまう。
「畜生がッ。離せよ十八ッ!!」
「私は何もしておりませんが。これはあなたが作り出した鎖ですよ?あなたの自業自得ではないのですか」
「俺が犯人だッ、犯人ッ……ぐッ…ううううううううううううう!!!」
ギリギリと鎖が彼の体に食い込み、肉が破れ、血が染み出して。
「…い…てぇ……。俺をこのまま絞り切って殺すつもりか…?」
「戦人の絞り立てジュースの出来上がりですね。おいしそうです」
「いつからそんな口が叩けるようになったんだお前。この俺にッ…!六軒島の領主である俺にいいッ!!」
「領主はあなた……?ふざけないで下さい。違います」
「領主はこの私ッ。八城十八ですッ!!だって私が、六軒島殺人事件の作家なのですからッ!!!」
「ッ……!!」
私は何度も締め付けられ苦しんでいる戦人を押し倒す。
「いてェッ…!!いてえよぉおッ……!」
ジワリと。初めて彼の目に涙が浮かぶ。
「あなたが見せたあの真実は全て偽り。幻です。幻想です。白昼夢ですっ!!私を騙そうとしていたのですねッ、でもお生憎さまでしたね。私はあなたが嘘をついていることに気付きました。嘘、それはすなわち魔法。全部魔法だと。魔法で人を殺したと言ってあざ笑う魔女と同じ行為です!!」
彼を踏みつけて、ののしる。
「違う……!ちがう……チガウ………!!!」
彼の表情は、あっと言う間に崩れていった。本当に簡単に。
「違うううう……。ベアトを悪く言うなああああ……!!!俺が、俺がぁ、犯人なんだよ。嫌だッ……。もう嫌だ、これ以上六軒島がもてあそばれたら、駄目なんだ…。終わりにしなくちゃならないんだッ。俺が終わりにする。俺が犯人だってことにして、終わらせるんだああああああああああああ!!!」
戦人…………。
「……それが、あなたの本音なんですね」
「…………ぁ……」
「……………でも、駄目です……。……………全然駄目ですよ、戦人」
「んっ……ぐ」
私は彼に口づけする。何度も何度も、舌が交わって。そして。
「んっ……ふぁっ……。や、やめ……や、やだ……」
鎖の食い込んだ部分を、何度もなぞりながら。
「…あなた、自分がベアトリーチェにすり替わろうとしている。全てが魔女のせい、そう言われていることを、あなた自身に変えようとしている。…そういうことですよね」
「……。十八……何で、わかるんだ…なぁ…お前は俺だから、わかっちまうのか…?俺だから……」
彼は涙を溜めた瞳で私を見つめてくる。
「えぇ、そうです。私はあなたで。あなたは私で」
そして、私は言った。
「だからわかるのかもしれません。きっと繋がっているんです」
二人で暗闇に倒れ、体を寄せ合っている。
「全てを一人で背負って逃げるつもりですか」
「だって、誰も犯人にしたくないんだ」
「そうですね。あなたの考えはいつもそうだ」
「誰かが犯人になるくらいなら、俺が犯人になる。ベアトのせいにする?そんなの嫌だ。俺は嫌なんだ」
「知っています。長い間ベアトリーチェと一緒にいて、情が湧いたんですよね」
「そう、だよ……。誰も悪いことにしたくないんだ…。はは、甘いよな…。無能って言われちまうよな…。そんな都合のいい世界、あり得る筈がないのに…。ばかだ、俺は……」
私は彼の手をギュッと握る。
「あなたは犯人ではないと宣言して下さい。そうすれば、その鎖から解放されます」
「…でも……」
「私を信じて下さい。助けてみせますから。ね、戦人」
「…十八」
戦人は、決意したようで、その言葉を口にした。
「……犯人じゃ…ない……。俺、犯人じゃねえッ、ううううううう!!」
彼の目からボロボロと涙が零れた。
私は彼の体を抱きしめて。
「よく言えましたね、戦人」
解放された彼の体は。私と全く同じだった。
当然ですよね、もう一人の私、なんですから。
……………………
…………
……
「最近、十八の独り言が激しくなった気がします」
ふと幾子さんに言われ、私はクスリと笑った。
「そうですね」
「本当に大丈夫なのですか?心配ですよ」
「幾子さん…。内緒にしてたんですが、実は」
「何ですか!?何かあるのなら、言って下さい」
「頭の中にペット飼ってまして。たまに話しかけてくるので、相手をしなくちゃいけないんです」
「……何それ怖い。ちょっと待って下さいね、今、お医者様に電話を」
「うわあああああ幾子さん!!冗談ですってば!猫のベルンに話し掛けてるだけです!」
「…全く、言って良い冗談と悪い冗談があります」
「謝ります!!それより、偽書のことなのですが」
「プロット、出来上がりましたか?ところで十八は本当に記憶を思い出したのですか?」
「正直に言いますと、かなり曖昧です…。まだ真実に辿り着いたとは言えない状況です。ですが、私なりに書いてみたいと思います」
「こんな曖昧な状態で、偽書を発表しても良いのかどうか…」
「世間にどう思われるかはわかりませんが。これを公表し続け、そして、これが真実だと、発表するところまで持って行って。あえて発表を拒否する。…これでどうにか、世間に伝えられたらな、と…」
「…六軒島の事件を、これ以上語るなと?うまく行くとは思えませんが…」
「私の自己満足でしかありません。幾子さんを巻き込むことになってしまいますが…。本当に申し訳ありません」
「もう後戻りなんてできませんよ。ここまで来たら、とことん付き合います」
「ありがとう、幾子さん……」
……………………
…………
……
あの出来事以来、私と戦人は会話することが多くなりました。
「戦人を助けるために頑張りますね」
「はいはい、ありがとうなー十八。って言ってもなあ、お前のやり方はかなり反感買うと思うぞ…?」
「ですよね…。それは覚悟しています」
「っていうか、縁寿に会ってやってほしいんだけど」
「ゴホンゴホン!!ゲホゲホ!!発作が!!」
「お前は朱志香かあああああ!!」
スパーンと戦人の突っ込みが飛ぶ。
「っつーか、何この恰好」
戦人は首輪に、全裸だった。
「俺にあのときの屈辱を思い出せと言うのか!うおぉぉぉおおおおおおお!!!」
「似合ってますよ、戦人」
「もうやめてええ!おムコに行けなくなるう!」
「安心して下さい、あなたは私のペットですから。永遠のペットです。ふふふふふ、ふふふふふふふふふふふふふふふふふふ……」
「誰か俺をこの永遠の拷問から解放してくれ!!何でいつもこんな役目なの俺ッ!?」
彼は、もう一人の私…なんですよね。つまり、自分自身にこんな恰好させてるってことになる訳で…。
私、変態ですね…。何この素晴らしい自慰行為…。
「戦人、喉かわきました。何か紅茶入れて下さい」
ぐいと首輪の鎖を引っ張る。
「いててて。このワガママ領主がッ…!……絶対あとで同じ目に合わせてやる…」
「何か言いました?」
「何でもねぇ……!」
でも楽しいからいいです。
戦人が私なんて、今ではとても考えられないのです。
愛しい存在になってしまったのですから。
END
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